昔、お釈迦様は、弟子たちにたくさんのことをお教えになりました。
ある日のことです。
静かな祇園精舎に言い争う声が聞こえます。
弟子たちのうちの二人が顔を真っ赤にして何か言い合いをしています。
そのうち、ひとりが少し落ち着いてきて、こう言いました。
「ぼくが悪かったよ。あやまるよ。」
ところが、言われた方は、
「いやだ。いくらあやまってもだめだ。」と手をぎゅっと握りこぶしにしています。
「二度としないから、許してくれ。頼む…。」
「あやまれば、それで済むと思っているのか!」と、だんだん声も大きくなります。
他の弟子たちも騒ぎを聞きつけ集まってきました。
やがて、見かねたある弟子が、二人の間に入って言いました。
「二人とも、もう止めろよ。いつまでたっても同じだぞ。」
しかし、争いはおさまりません。
困った弟子たちは、お釈迦様のところへ相談に行きました。
「お釈迦様、あの二人の争いが、まだおさまりません。いかがいたしましょう?」
お釈迦様は静かな声でおっしゃいました。
「二人をここへ連れておいで。」
連れて来られた二人は、お釈迦様の前に来て、ひざまづきました。
お釈迦様はおっしゃいました。
「自分の間違いをあやまらない者は、いけない。また、相手があやまっているのに
許してやらない者も、いけない。二人とも愚か者と笑われる。
自分が悪かった、と素直にあやまる者と、それを気持ちよく許してやる者は賢いのだよ。
友だちは大切にして争いになるようなことを言ってはいけない。
怒っている人に怒り返すのは、もっといけないことだ。
ほんのわずかな『怒り』の心が次第に大きくなり、取り返しのつかなくなることに発展するのだよ。」
おわり