インドという国の、昔のお話です。
あるところに、大きな湖がありました。その湖の周りには、タカの親子、ライオン、
鳥の王様ミサゴ(タカ科の鳥)、そして湖の中の島には、大きな亀が住んでいました。
みんなはとても仲が良く、いつも助け合って暮らしていました。
タカの巣には、生まれたばかりのひな鳥たちがいました。
タカの父さんと母さんは、2羽のひな鳥をとても可愛がっていました。
ある日のこと、猟師たちが、タカの住む大きな木の下にやって来ました。
一日中歩き回っても獲物をとることができず、猟師たちはすっかり疲れていました。
「ふうっ、今夜はここで休もう。」と、やっと腰をおろしました。
ところが、蚊がうるさくてちっとも休めません。
困った猟師たちは、木の葉を集めて火をつけました。
煙で蚊をいぶして、追い払おうというのです。煙は、もくもくと広がり始めました。
その煙が上っていった木の上には、タカの巣がありました。巣の中の小さなひな鳥たちが、
煙にむせて、ぴぃぴぃと苦しそうに鳴き始めました。
「大丈夫かしら?」
タカの母さんが、不安そうに下をのぞきこみました。
「よし、わたしが追っ払ってこよう。」
タカの父さんは、バサッと飛びおりました。
タカの姿を見た猟師たちは、
「おい、タカだ。木の上でひな鳥の声もしたぞ。」
「きっと、巣があるんだ。」
と、獲物が見つかり元気を取り戻しました。
「もっと煙をたてて、ひな鳥をいぶし出そう。」
「やっと、おいしいひな鳥の肉にありつけるぞ。」
猟師たちは、タカの父さんにはかまわず、より一層強く火を焚き始めました。
タカの母さんは、苦しそうに鳴き続けるひな鳥たちを抱きしめて言いました。
「お父さん、このままでは人間に捕まってしまいます。
早く王様に助けてもらいましょうよ。」
タカの父さんは、大急ぎでミサゴのところに飛んで行きました。
タカの親子の一大事を聞いて、ミサゴは大きな翼をはばたかせて、すぐにかけつけました。
すると猟師のひとりが、たいまつを手に木を登り、今まさに、タカの巣に手を伸ばそうと
しているところでした。
「あっ!あぶない!」
ミサゴは矢のように早く湖にザバーンと飛び込んで、体に水を含ませるや、たいまつに
思いきり体当たりしました。
すると、大きな炎はたちまち消えました。
怒った猟師たちは、たいまつを作り直すと、また木に登りました。しかしミサゴも、
その度に体をぬらしては、体当たりして火を消します。
そんなことをくり返しているうちに、ミサゴの羽は焼けただれ、あちこちから
血がにじんできました。
タカの父さんは、見かねて叫びました。
「王様、おやめください。あなたまで、死んでしまいます。」
するとミサゴが、怒ったように言いました。
「何を言う!わたしの命をかけても、おまえたちの可愛いひな鳥を守るんだ!」
それを聞いた、タカの父さんは目に涙を浮かべ、大ガメに助けを求めに行きました。
タカの話を聞いた大ガメは、
「わたしで役に立つなら、何でもしよう。」
と、言って湖に潜りました。
体中に泥をこすりつけると、猟師たちの焚き火の上にドサッと座り込みました。
「な、なんだ、こいつは?」
猟師たちはびっくりしましたが、すぐに、にやりと笑って言いました。
「おい、ちっぽけなひな鳥より、この大ガメのほうが、食べがいがあるぜ。」
「そうだ、そうだ。」
と、猟師たちは、近くにあったつる草で、大ガメをしばり上げました。
ところが、大ガメは、しばられたまま、のっそのっそと湖の方に歩き始めました。
猟師たちはあわてて、力いっぱい引っぱりました。
「負けるものか!」
しかし、大ガメの力にはかないません。
猟師たちは、ずるずると湖の中に引きずりこまれてしまいました。
ようやく岸にはい上がった猟師たちは、焚き火をしながら口ぐちに言いました。
「ふぅ、ひどい目にあった。」
「着物はぬれるし、水は飲むし…。」
「こうなったらどうしても、あのひな鳥を捕まえるぞ。」
それを聞いたタカの父さんは、残った力をふりしぼり、ライオンのところに向かいました。
ライオンはタカの話を聞くと、力強い声で言いました。
「安心するがいい。おまえの敵は、わたしの敵だ。さあ、行こう。
かわいいひな鳥たちを助けに。」
ガオーッ!
ライオンは、ものすごい勢いで走り出すと、湖の上を一気にかけぬけました。
水しぶきを上げて、むかってくるライオンを見た猟師たちは
「た、たすけてくれーっ!」。
と、われ先にと逃げていきました。
「みなさん、ありがとう。」
ひな鳥たちの命を守ってもらったタカは、涙を流してお礼を言いました。
するとライオンが、優しい声でみんなに言いました。
「わたしたちは、友だちだ。これからも、みんなで助け合おう。」
木の上では、ひな鳥たちが、ぴぃぴぃと嬉しそうに鳴きました。
― 終わり ―