むかし、あるところに ひとり者の炭焼き男がいました。
毎日毎日、ただ黙々と炭を焼いているばかりでした。
その家は貧しい家でしたが、片隅の小さな箱に観音様をまつってありました。
朝と夕に、炭焼き男は、必ず観音様に手を合わせていました。
そしてある日見知らぬ女性がたずねてきました。
女性は炭焼き男に言いました。
「わたしを泊めてくださいまし。」
男はびっくりして言いました。
「こんなあばら屋に、おまえさんみたいな立派な人を泊めることはできません。」
女性は自分から、家の中に入ってしまいました。
「わたしは町の長者の娘です。
今までに49回も嫁に行きましたが、どうも縁がありません。
それで、観音様にお願いをしたら、東の方の炭焼きのところへ行けという、
おさとしがありました。」
男が黙っていると
「観音さまのおさとしですから、逃げるわけにはいきません。」
そう言って、とうとう泊まりこんでしまいました。
女性は町一番の長者様の娘でありました。
炭焼き男は、ただでさえ貧乏なところへ お嬢様が来たので、いよいよ貧乏になって、
とうとう米を買うこともできなくなってしまいました。
するとお嬢様は、ピカピカ光る小判を男に渡して
「心配しないでください。これを持って行けばいくらでも買えます。」
と、言いました。
ところが炭焼き男には、それが小判だということがわかりません。
「なんだ?これが銭か?こんなもんで物が買えるのかい?」
と、驚いています。
「あなたが、炭を焼いている裏山には、それがいくらでもありますよ。
うそだと思うのなら案内してあげましょう。」
男は、お嬢様についていきました。
裏山のその場所には本当に小判がきらきらと輝いていました。
炭焼き男は、掘り出した小判を第一番に箱の中の観音様にお供えし、御礼を言いました。
そして、ふと、お嬢様をさがしましたが、姿が見えません。
家のまわり、辺り一帯をあちらこちら探しましたが、とうとう見つかりませんでした。
その後、炭焼き男は、手に入れた小判で長者になりました。
そして観音様にいつも手を合わし、感謝の心を忘れずに生活しました。
-終-